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浦和地方裁判所 平成11年(ワ)100号 判決 2000年7月25日

原告

甲野太郎

原告

甲野春子

右二名訴訟代理人弁護士

中西義徳

被告

学校法人○○学園

右代表者理事

乙山東男

被告

乙山東男

外三名

右五名訴訟代理人弁護士

阪岡誠

被告

埼玉県

右代表者知事

土屋義彦

右訴訟代理人弁護士

関口幸男

右指定代理人

川端雅哉

外三名

主文

一  被告学校法人○○学園、同乙山東男、同乙山西子、同丙川一子、同丁原二子は、連帯して、原告らに対し、各金六八七万八〇九四円及び各内金三五七万八〇九四円に対する平成一〇年八月二五日から、各内金三三〇万円に対する平成一一年二月六日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告学校法人○○学園、同乙山東男、同乙山西子、同丙川一子、同丁原二子に対するその余の請求及び被告埼玉県に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の、その余を被告学校法人○○学園、同乙山東男、同乙山西子、同丙川一子、同丁原二子の各負担とする。

四  この判決は、原告らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告学校法人○○学園、同乙山東男、同乙山西子、同丙川一子、同丁原二子は、原告らに対し、それぞれ金八二二万三九二九円及びこれに対する平成一〇年八月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を連帯して支払え。

2  被告らは原告らに対し、それぞれ金一一〇〇万円及びこれに対する平成一一年二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二  事案の概要<省略>

第三  証拠<省略>

第四  争点に対する判断

一  本件証拠(甲第一ないし第一七、第二〇号証、乙第一ないし第一四、丙第一号証、第二号証の一ないし五、原告各本人、被告哲也本人)によると、次の事実が認められる。

1  夏子は、××幼稚園三歳児クラスに在籍しており、本件事故当日、普段どおり××幼稚園の送迎バスに乗って、同幼稚園に登園した。同幼稚園では、同日午前九時二五分から授業が開始され、午前一一時四〇分から弁当を食べ、片づけをした後、園庭での自由遊びが行われ、七、八〇名の園児が園庭の好きな所で遊んでおり、園児らは、縄跳びの縄を使用する等して遊んでいた。右自由遊びの時間には、七、八名の教職員が、園庭に出て、園児らに対する注意を払っていた。

2  ××幼稚園の教職員は、自由遊びの時間や園児が園庭で遊ぶような時には、園長らを除く教職員が園庭に出て、事故が起きないように注意すること、園児が一人でも外に出れば、教職員も必ず外に出る等して事故の発生を防止することに関する申し合わせをしており、特に、本件うんていについては、その頂上部から園児が落下しないように支えるなどの注意を払うようにしていた。

また、本件ロープは、綿を素材とした縄跳び用のロープで、××幼稚園は、各園児が縄跳びをする際の教材として使用していたものであり、普段は、園児が届かない場所に数を確認して保管していた。

本件ロープは、本件事故当日に行われた行事に際して、事故前日から使用されており(乙第三号証)、本件事故当日の自由遊び時間の際も、園児らは本件ロープを使用して遊んでいた。

3  戊田教諭が、本件事故当日午後一時二〇分ころ、夏子が、本件うんていの高さ1.3メートルの付近で、本件ロープに首をかけて、ぶら下がっているところを発見し、同日午後一時二二分ころ、一一九番に通報するとともに、原告春子に対して本件事故を連絡した。

夏子は、本件事故後、××幼稚園の職員室に運ばれ、応急措置による蘇生を行い、救急車で医療センターに搬送されたが、右搬送に際して、被告智子が、園児らに対する影響を慮って救急車のサイレンをならさないでほしい等という場面があった。夏子は、医療センターに搬送され、蘇生術が行われたが、同日午後二時一一分、夏子の死亡が確認された。

4  被告学園は、本件事故の発生後、埼玉県学事課(以下「県学事課」という。)に対し、本件事故の発生を連絡し、同課幼稚園担当者二名が、本件事故当日夕方、××幼稚園に赴いて、被告哲也らから事情を聴取し、本件事故の現場写真を撮影する等、現場の確認、関係者からの事情を聴取するとともに、本件事故に関する報告を県に行うように指導した。

また、本件事故当日の午後三時ころから同日午後九時三〇分ころまで、被告西子、同東男、同戊田、同丁原、丙川教諭及びA教諭らが、警察から本件事故に関する事情を聴取された。

被告西子、同戊田、同丁原ら××幼稚園の教職員ら一〇数名が、同日午後一〇時ころ、原告ら宅を訪れたが、原告らは、夏子が死亡したことで、動揺し、事故でなく、殺されたと思っていたことから、被告学園及び××幼稚園の関係者らの顔も見たくないし、会うことも嫌であり、話もしたくないという状況であったことから、原告太郎は、被告西子らに対し、「夏子は、ここにいない。帰れ。」と言い、また、同日午後一一時ころ、同西子及び同東男が原告ら宅を訪れたが、応答がなかった。

5  被告西子らは、平成一〇年四月二二日午前中、原告ら宅を訪れたが、留守で会うことができなかったため、原告らの実家を教えてもらい、実家を訪れたが、門前払いを受けた。その後、仲介を立てて原告ら宅を訪れ、葬儀料等の支払を申し出たが、原告らは、式が終わったら弁護士に依頼するということで、右申し出を拒否した。

6  被告西子らは、平成一〇年四月二三日午後六時ころ、夏子の通夜に行ったが、香典及び生花の受領を拒否され、静かに送ってやりたいとして、通夜に参列することもできなかった。また、翌二四日の告別式への参列もできなかったため、路上で膝をつくなどして出棺を見送った。

7  原告らは、平成一〇年四月二五日、原告ら宅を訪れた被告丙川らに対し、本件事故について訪ねたところ、同被告は、首に縄が掛かっていたと答えたのみで、何があったのかという問いに対しては、見ていなかったのでわからないと答えたことから、夏子のクラス主任であった同被告に対する信頼が踏みにじられたという気持ちとなり、その後も、同東男、同西子らが、原告ら宅を訪れるたびに、精神的に不安定が状態で、怒りからくる震えと血が逆流する思いにかられるようになった。原告らは、その後も、被告学園等が原告ら宅の訪問を続けたため、何しに来るのかと訪ねたところ、お見舞いですと言うのみであったことから、被告学園等はただ来れば良いというだけで来ており、何しに来ているのかすら分かっていない、夏子に対して申し訳ないことをしたという意思は全くないとしか思えないという気持ちが、次第に強くなった。

8  被告学園は、本件事故後である平成一〇年四月二二、三日ころ、教職員間で、保育開始前の自由遊びについては、門の所に出迎えの教員一人であったのを遊具周辺にも一人の教員が、当番制でいるようにする、外遊びについては、園庭遊具で園児が遊ぶ場合は、遊具担当者を決めて監視すること等を内容とする「保育内容について」を取決め、実行することとし、また、本件うんていは、同月二二日に撤去し、園児と保護者の不安を取り除くため、同月二五日、本件事故に対する説明会を開催した。

また、被告学園は、本件うんていを撤去した場所には、夏子の冥福を祈る目的で花壇を設置し、毎月の月命日には、墓参りをするなどしているほか、職員室には、夏子の写真と花を飾る等の対応をした。

9  原告らは、平成一〇年五月一〇日、本件事件に関する対応について、原告ら訴訟代理人である弁護士中西義徳(以下「中西弁護士」という。)に依頼し、中西弁護士は、同月一四日、被告学園に対し、本件事故に基づく損害賠償の全体については、同年六月末ころまでには請求の交渉をしたいと考えている、本件給付金二一〇〇万円が被告学園に支払われているということであるので、当面、右金員について内払いを求める旨の書面(甲第一号証)を送付した。被告学園は、同年六月三〇日、中西弁護士に対し右二一〇〇万円を送金した。

10  中西弁護士は、平成一〇年六月二日、埼玉県総務部学事課(以下「県学事課」という。)に対し、本件事故について、××幼稚園からどのような報告があったのか、県学事課は、本件事故についてどのような対応をとり、また、今後どのような対応をとる予定かという質問書(甲第三号証)を送付した。

県学事課長須田彬(以下「須田課長」という。)は、同月一五日付け「照会文書に対する回答」と題する書面(甲第四号証)をもって中西弁護士に対し、本件事故当日は、県学事課幼稚園担当者二名が、××幼稚園に赴き、現場の確認及び××幼稚園関係者から事情を聴取し、本件事故に関する報告をするように指導したこと、本件事故に関する報告は、同年四月二七日、××幼稚園理事長である被告東男が、県学事課を来訪して、本件事故発生の日時、場所、事故の概要、事故関係者、今後の処置等を記載した右当日付け事故報告書(乙第一号証、丙第一号証)を持参して提出したこと、その際、県学事課は、被告東男に対し、遺族に対して、誠意ある対応を行うこと、事故再発防止のため安全管理面での徹底した対応を行うこと、保護者に対して、本件事故及び今後の対応について十分な説明を行うことを指導し、全私立幼稚園に対しても、本件事故が発生したことから、「幼稚園における園児の安全確保と事故防止の徹底について(通知)」と題する同年四月二二日付け書面(甲第四号証添付書面)を発し、同月二四日の全埼玉県私立幼稚園連合会総会の席上においても、本件事故に言及して、幼稚園関係者らに対し、園児の安全確保及び事故防止の徹底について注意を喚起したこと、また、今後においても、学校保健法に則り、施設、設備の安全管理をはじめ学校環境の安全を確保するように引き続き指導する旨を回答をした。

11  中西弁護士は、平成一〇年七月一四日、被告学園が依頼した本件被告学園等訴訟代理人弁護士阪岡誠(以下「阪岡弁護士」という。)に対し、原告らの中西弁護士に対する依頼の趣旨は、本件事件の真相解明及び損害賠償の請求の二つであるが、損害賠償請求の前提として本件事故に関する解明を求めたが、本件事故後三か月経過するにもかかわらず、被告学園等からは本件事故に関する事実経過の説明が一切ないとして、被告学園及び××幼稚園の全教職員に対する質問事項を付し、これに対する回答を求める旨の書簡(甲第五号証)を送付した。

中西弁護士は、被告学園から、右書簡における質問事項について、何らの回答もなかったため、平成一〇年八月一二日、阪岡弁護士に対し、早急に右質問事項に対する回答を求めるとともに、同月中に回答ができないのであれば、その旨及びいつ回答ができるのかを知らせてほしい旨を記載した書簡(甲第五及び第六号証)を送付した。

12  被告学園は、平成一〇年八月二四日、中西弁護士に対し、本件事故に関する損害賠償の残余金として九六〇万二八六六円を送金した。

13  中西弁護士は、平成一〇年八月二七日、阪岡弁護士に対し、原告らは、夏子の死亡した経緯の解明を求めているにもかかわらず、残余金を振り込んだ旨の書面、損害額を算定した書面及び受取証の三通の書面を送付し、右損害賠償の残余金を送金したことは、金さえ払えばいいのだろうと言っているとしか受け取れず、親の気持ちを逆なでするものである、今回の残余金について、被告学園は、自動車事故損害賠償責任における損害賠償額の算定基準であるいわゆる赤本に従った算出をするというが、慰謝料と葬祭費については、右基準に従った金額でない、原告らは、右残余金は、損害賠償の一部として受領するが、同月一二日付け書面のとおり、原告らの質問事項に対する早急な回答を求める旨の書簡(甲第八号証)を送付した。

阪岡弁護士は、平成一〇年八月二八日、中西弁護士に対し、××幼稚園及び職員は、原告らに対し、経過を十分説明したとのことである、損害額について、双方に食い違いがあることは、十分承知している、質問事項については、警察での取調中であるから、現時点では回答できない旨を記載した書面(甲第九号証)を送付した。これに対し、中西弁護士は、同月三一日、右は、誠意のない回答であるとして改めて回答を求めるとともに(甲第一〇号証)、須田課長に対し、これまでの被告学園等とのやりとりを説明し、被告学園等の対応が、県学事課が被告学園等に対して行った指導に従ったものであると評価することができるか否か等を質す旨の書面(甲第一一号証)を送付した。同課長は同年九月二九日、被告学園の対応については、遺族に対し誠意が伝わるよう十分な配慮が必要であると考えるので、幼稚園の安全な環境の確保と合わせて引き続き指導する旨の回答(甲第一三号証)をした。

14  被告学園は、平成一〇年九月一〇日、原告らを相手方として、夏子の冥福を祈るとともに、原告らとの間で、一日も早く円満な解決を望むものであるところ、公平なる第三者の仲裁によることが最良であると考えるとして、川口簡易裁判所に対し、本件事故に基づく損害賠償等について調停委員会の相当なる調停を求める旨の調停を申し立てたが(同裁判所平成一〇年(ノ)第一五三号債務弁済協定調停申立事件。甲第一二号証の一及び二)、原告らは、同裁判所に対し、被告学園が本件事件の真相の究明について明らかにしようとしない状況の中で、損害賠償に関する話合いに応ずる意思は全くない旨を記載した準備書面(甲第一四号証)を提出したため、右調停申立事件は、同年一一月三〇日、不成立により終了した。

15  中西弁護士は、平成一〇年一一月二日、阪岡弁護士から前記質問事項に関する被告学園及び××幼稚園の職員らから回答(甲第一五号証、乙第九ないし第一二号証)の送付を受けた。

二  被告学園等に対する請求

1  前記事実によると、××幼稚園においては、縄跳びの縄については、日ごろ、本数を確認して、園児らの届かないところに保管していたが、本件事故当日の行事において本件ロープを使用するため、その前日から園児らに対し、本件ロープを使用させていたこと、夏子らは、本件事故当日弁当を食べた後、自由遊びの時間であったため、他の園児ら七、八〇名とともに園庭で自由に遊んでいたこと、本件うんていの近くにいた戊田教諭が、同日午後一時二〇分ころ、本件うんていの高さ約1.30メートルの箇所に両端が右うんていに結びつけられていた本件ロープに首をかけている夏子を発見し、直ちに救急車で医療センターに搬送に、救急措置を講じたが、そのかいもなく同日午後二時一一分ころ、夏子の死亡が確認されたことが認められる。

右事実によると、被告学園は、日ごろ、縄跳びの縄等については、その本数を確認し、安全な場所に保管するようにしており、本件うんていについては、本件うんていで遊ぶ園児が落下しないように監視をすることとなっていたというのであるが、本件事故当日は、××幼稚園の行事のために縄跳びの縄を使用しており、夏子は、本件うんていにかけられた本件ロープに首をかけるという本件事故に遭ったのであり、特に、夏子は、三歳児であり、××幼稚園に入園して間もないころで、親元を離れて慣れない幼稚園生活を始めた状況であったのであるから、自由遊びの時間であっても、その安全確保、事故防止には一層の配慮が求められるというべきであるところ、××幼稚園の教職員らは、本件事故が発生するまでの間、夏子及び他の園児らの行動及び本件うんていにおける園児らの遊びの状況等について知らなかったというのであるから、××幼稚園の園長である被告西子、夏子のクラス主任及び副主任である同丙川及び同丁原は、××幼稚園における縄跳びの縄の管理、本件うんていの落下防止等に関する運用を履践し、夏子の自由遊び時間における行動、本件うんていにおける園児らの遊戯の状況や縄跳びの縄の使用等について十分な監視をしていたとは認められない。また、被告学園も、××幼稚園を経営するものとして、××幼稚園の教職員らに対する園児らの安全確保及び事故防止に関する教育、管理をしていたと認めることもできない。

したがって、本件事故は、右のとおり、被告学園等が、園児らに対する安全確保及び事故防止に関する注意義務を怠ったことに起因するというべきであるから、被告学園等は、本件事故によって生じた損害を賠償すべき責めを負う。

2  原告らは、被告学園等が原告らに対して誠実に対応し、説明をすべき義務があるのに、被告学園等は、原告らに対して、誠実に対応することなく、かえって、原告らの感情を逆なでするような行為を繰り返したので、原告らは、精神的な損害を受けたと主張する。

前記認定事実によると、原告らは、本件事故に関する連絡を受けた後、川口救急センターにかけつけたが、本件事故当日午後二時一一分に夏子の死亡が確認されたことを知らされ、気が動転し、本件事故は、単なる事故ではなく、××幼稚園に殺されたものであると考え、同日、原告ら宅を訪れた被告智子らに対し、「夏子は、いないので、帰れ。」等と言ったため、被告学園等は、やむなく帰ったこと、その後も、被告智子らは、生花や見舞金等を用意して、原告ら宅を訪れたが、原告らは、来なくて良い、被告学園等は幼稚園のことしか考えていない、弁護士を通して話すから来ないでほしい、式が終わったら弁護士に依頼する等と言って、被告学園等が用意した生花や香典等の受領を断り、夏子の通夜及び告別式への参列も拒否したこと、原告らは、夏子の死亡に至った経緯等の事実関係を知りたいとして、被告戊田らに、本件事故の際の状況を質したが、右被告らは、見ていなかったので分からない等と答えたことから、原告らは、被告学園等に対する信頼が踏みにじられたという気持ちになり、被告西子をはじめとする××幼稚園の教職員らの原告ら宅への訪問も、夏子に対する謝罪の気持ちがなく、ただ来ればよいということで来ているという気持ちが強くなり、右訪問を強く拒絶するようになり、被告学園等も、原告らと直接話すこともできない状況となったこと、中西弁護士は、平成一〇年五月一四日、被告学園に対し、被告学園が学校健康センターから支給を受けた本件給付金の支払を求め、その後、同年七月一四日、本件事故後三か月が経過したが、本件事故について何らの説明がないとして、被告学園及び××幼稚園の全教職員らに対し、質問書を送付し、回答を求めたこと、しかしながら、被告学園等からは、一向に回答がないため、中西弁護士は、同年八月一二日、右回答を督促する書面を送付したこと、被告学園は、これに対し、中西弁護士に本件事故に関する損害賠償の残余金としての金員を送金したのみで、右回答をしなかったため、中西弁護士は、同月二七日、再度、質問事項に対する回答を求めたこと、被告学園等は、同月二八日、経過を十分説明したこと、質問事項については、警察での取調中であるから回答できないという回答をしたこと、中西弁護士は、誠意のない回答であるとして、改めて回答を求めるとともに、県学事課長に対し、被告学園等の対応が県学事課の指導に沿ったものであると評価できるものであるか否か質問をしたこと、被告学園は、同年九月一〇日、本件事故の損害賠償に関する調停の申立てをしたが、原告らは、本件事故の真相が解明されていない状況では、調停に応じることはできないとしたことから、右調停は不成立に終わったこと、被告学園等は、同年一一月二日、原告らに対し、前記質問事項に対する回答をしたことの各事実が認められる。

被告学園等は、本件事故直後から、夏子の冥福と原告らに対する弔意等のために見舞金や生花を用意して、原告ら宅を訪れたが、原告らは、夏子が死亡したのは、事故でなく、被告学園等に殺されたとして、被告学園等の夏子に対する弔意等をかたくなに拒絶し、被告学園等との話合い等も殊更に拒んでいたものであり、被告学園等は、夏子に対する冥福及び原告らに対する弔意を相応にしており、これが社会通念上不相当なものであり、形式的であり、単に儀礼的なものであったと認めることはできない。

ところで、夏子は、××幼稚園に入園し、ようやく園における生活にも慣れ、他の園児らとの生活を楽しめるようになったところであり、このような園生活に対する期待と希望をもって登園した夏子が、突然の不慮の事故で死亡したことに対する原告らの悲嘆は、計り知れないものがあり、被告学園等に対し、本件事故の原因等の解明を求めることは、親の気持ちとして当然であり、被告学園としても、本件事故の原因を解明し、事故の再発を防止するための方策を講じ、安全確保と事故防止の徹底を図ることは、責務の一つというべきである。しかしながら、被告学園等は、本件事故時の状況を教職員から一通り聴取し、本件うんていを撤去し、その旨を県学事課に報告したのみで、本件事故の発生原因等については、もっぱら警察の捜査等に委ね、原告らからの事実関係に関する求めに対しても、詳細な事実関係は、警察の取調中であるとして明確な回答をせず、原告らの質問事項についても、適切な対応をすることなく放置し、中西弁護士からのたび重なる督促の結果、ようやく回答したもので、この間、被告学園等は、本件事故の原因解明を求める原告らに対し、右回答をすることができないこと及び回答が遅れている事由等を示すこともなかったし、また、右回答をしなかったことについて格別にこれを相当とする事由が存していたとは認められない。この間、被告学園等の対応は、原告らとの損害賠償に関する解決を模索する等していたとの指摘を受けてもやむを得ない状況であったというべきで、被告学園等が、本件事故により最愛の子供を亡くした原告らの前記気持ちをそんたくし、その意に沿う対応をしていたと認めることは困難であるといわざるをえない。

ところで、原告らは、被告学園等が犯人を隠したとするが、本件全証拠によるも、係る事実を認めることはできないし、右事実を認めるべき証拠もない。また、原告らは、被告学園が原告らの意思に反して原告らの自宅を訪問したとか金で済まそうとしたと主張するが、確かに、原告らが拒絶するにも関わらず、被告学園等は何度も原告ら宅を訪問したことが認められるが、被告学園等としては、夏子及び原告らに対する弔意と見舞い及び謝罪等の気持ちから行っていたものであり、社会的通念上、被告学園等の右行為が相当でないと認めることはできないところであり、かえって、原告らは、夏子は殺されたとして、一方的に被告学園等の来訪を拒絶していたもので、直ちに、被告学園等の来訪が不法行為を構成すると認めることはできない。さらに、原告らは、被告学園等は金で済まそうとしたとするが、被告学園は、原告らが本件事故の原因解明を強く求めたにもかかわらず、これに応じることなく、損害賠償に関する問題の解決を企図し、調停の申立てや、損害賠償の残余金としての支払をしたことが認められるが、原告らは、当初から、本件事故の原因解明とともに損害賠償に関する請求をしていたのであるから、被告学園等の右対応が原告らの意に沿わないものであるとしても、これが直ちに不法行為を構成するものであると認めることはできない。

被告学園等は、原告らに対し、夏子に対する弔意等については、社会通念上相応な対応をしていたが、かえって、原告らが、被告学園等との話し合いや接触を拒絶していたもので、被告学園等の対応は、原告らの感情を逆なでするものであり、精神的な苦痛が倍加したとして、慰謝料の請求をすることは、権利の濫用であると主張するが、被告学園等の原告らに対する対応は、前記説示のとおり相当でない面も存するところであるから、これを理由とする原告らの主張が、権利の濫用に該当すると認めることはできない。したがって、被告学園等の右主張は、理由がない。

3  被告学園等に対する損害

(一) 夏子の損害

(1) 逸失利益 二〇九〇万八三一九円

夏子は、本件事故当時、三歳で、将来就労の可能性があり、満一八歳から満六七歳まで稼働することが可能であると認められるところ、平成一〇年度賃金センサス第一巻第一表企業規模計、女子労働者学歴計による年収額が三四一万七九〇〇円であることは、当裁判所に顕著な事実であり、ライプニッツ係数(8.739)により中間利息及び生活費控除三〇パーセントを控除すると、夏子の逸失利益は、二〇九〇万八三一九円となる。

(2) 葬儀費用 一二〇万円

夏子の葬儀費用は、一二〇万円が相当である。

(3) 夏子の慰謝料 一五〇〇万円

夏子は、原告らの子として出生し、その慈愛を受けて生育し、本件事故により幼くして死亡したもので、本件事故に対する被告学園等の責任は、前示のとおりであり、夏子は、入園間もない三歳児で、親元を離れての幼稚園生活は初めての経験であり、社会性も乏しいのであるから、被告学園等は、事故防止や安全確認等を万全にして快適かつ安全な生活環境の下で保育することは、当然であるというべきであるところ、かかる配慮に欠ける面があり、夏子の行動等について何らの注意を払っていなかったことが本件事故の遠因であるといえる。そして、夏子の死亡に至る経緯、その他事故後の被告学園等の対応等の諸般の事情を勘案すると、夏子の慰謝料としては、一五〇〇万円が相当である。

(4) 控除すべき金額

右のとおり、本件事故による原告らの損害は、右合計三七一〇万八三一九円となる。

原告らが、日本体育・学校健康センターから本件給付金二一〇〇万円の支給を受け、被告学園から九六〇万二一三一円の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。

ところで、原告らは、日本体育・学校健康センターの本件給付金は、本件損害のうち逸失利益について、充当されるべきであるとする。

本件給付金は、被告学園が、日本体育・学校健康センター埼玉県支部との間で締結した災害共済給付契約に基づいて、同支部が、災害共済給付として給付をしたものであり、右災害共済給付契約には、学校設置者が損害賠償の責めに任ずる場合において、日本体育・学校健康センターが災害共済日本体育・学校健康給付契約に基づいて災害共済給付を行ったときは、同一の事由については、当該学校の設置者は、その価額の限度においてその損害賠償の責めを免れる旨の免責特約が定められており、免責の対象となる損害の範囲及び項目等を限定するとする定めはないから、日本体育・学校健康センターが災害共済給付金を給付した場合は、学校設置者は、右給付された価額の限度内で、損害賠償の責めを一切免れると解するのが相当である。したがって、本件事故に関して給付された本件給付金は、本件事故により被告学園が負うべき総損害額から控除されるべきであるとするのが相当である。

(5) したがって、夏子が被った損害三七一〇万八三一九円から右既払分合計三〇六〇万二一三一円を控除すると、被告学園等が、夏子に対して支払うべき損害は、合計六五〇万六一八八円の損害賠償義務を負担する。

(6) 弁護士費用 六五万円

夏子に対する損害賠償請求と相当因果関係のある弁護士費用としては、六五万円が相当である。

(7) 右のとおり、被告学園等は、夏子に対し、合計七一五万八〇九四円の損害賠償義務を負担する。

(二) 原告らの損害

(1) 慰謝料 合計六〇〇万円

原告らは、本件事故により最愛の夏子を失い、深甚な精神的苦痛を受けたことが認められ、本件事故の原因、被告学園等の責任原因、本件事故後の被告学園等の原告らに対する対応等の事情を勘案すると、原告らの慰謝料は、各自三〇〇万円が相当である。

(2) 弁護士費用 合計六〇万円

原告らの損害賠償請求と相当因果関係のある弁護士費用としては、各自三〇万円が相当である。

(3) したがって、被告学園等は、六六〇万円の損害賠償義務を負担する。

(三) 遅延損害金

右のとおり、被告学園等は、本件事故による損害賠償として合計一三七五万六一八八円の支払義務を負う。

(1) ところで、被告学園等は、原告らに対し、本件事故による損害賠償の責めに任ぜられるとしても、被告学園が、本件事故の損害賠償について調停を申し立てたことにより、民法四一三条に基づく履行の提供をしたというべきであるから、右調停の申立てをした平成一〇年九月一〇日以降の損害金及び遅延損害金は、発生しないと主張する。

前記認定のとおり、被告学園は、平成一〇年八月二四日、夏子に対する損害賠償額を合計三〇六〇万二一三一円と算出し、これから本件給付金を控除した九六〇万二一三一円を残支払金として支払ったこと(甲第四号証)、中西弁護士は、被告学園に対し、一方的に損害額を決めて、送金したことは、夏子の死亡の経緯を知りたいとする原告らの気持ちを逆なでするものであること、被告学園等は自動車事故損害賠償責任における損害賠償額の算定基準に従って右残支払金を算出したとするが、右算定基準に従ったものとは認められないとしたことから、被告学園は、同年九月一〇日、川口簡易裁判所に対し、本件調停を申し立てたが、原告らは、被告学園が本件事件の真相の究明をしない状況の中では、損害賠償に関する話合いをする意思はない旨を申し立てたため、右調停は、不成立で終了したのであるから、本件調停において、被告学園が支払うべき具体的な損害賠償が定まったわけではなく、また、被告学園が、損害賠償額の全額について現実の提供をしたという経緯も存しないところであるから、本件調停の申立てにより、弁済の提供がされたとする被告学園等の右主張は、理由がない。

(2) 原告らは、本件事故による損害賠償額の遅延損害金のうち、夏子の被った損害分の遅延損害金については、被告学園等から損害賠償金が支払われた平成一〇年八月二四日の翌日である同月二五日から、原告らが被ったとする慰謝料相当分の遅延損害金については、本件訴状送達の日の翌日である平成一一年二月六日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(四) 被告学園等は、本件事故により、合計一三七五万六一八八円の損害賠償義務を負担するところ、原告らは、被告学園等に対し、それぞれ右損害額の二分の一に相当する六八七万八〇九四円及び内金三五七万八〇九四円に対する平成一〇年八月二五日から、内金三三〇万円に対する平成一一年二月六日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の損害賠償を請求することができる。

三  被告県に対する請求

前記認定した事実によると、被告学園から本件事故の報告を受けた被告県は、県学事課の職員が、本件事故当日の夕方、××幼稚園において、本件事故に関する事情聴取及び現場の確認をするなどして、本件事故に関する調査を行うとともに、被告学園に対し事故報告書の提出を求めたこと、県学事課は、本件事故の翌日である平成一〇年四月二二日、全私立幼稚園に対し、本件事故が発生したこと、各幼稚園においては、今後、二度とこのような事故が起きないように園児の安全対策を事故防止の徹底について万全の指導を行う旨を記載した通知を発し、同月二四日に開催された全埼玉私立幼稚園連合会総会においても、県学事課長が、本件事故に言及した上で、幼稚園における園児の安全確保、事故防止の徹底について注意を喚起したこと、被告学園は、平成一〇年四月二七日、県学事課に対し、本件事故報告書を提出したが、その際、県学事課は、被告学園に対し、遺族に対し誠意のある対応をすること、事故再発防止のため安全面での徹底した対応をすること、保護者に対して本件事故及び今後の対応について十分な説明を行うことを指導したこと、県学事課は、同年五月下旬ころ、被告学園に対し、その後の状況を確認し、引き続き遺族に対して誠意ある対応方を指導したこと、中西弁護士から、同年六月四日、県学事課に対し、本件事故に関する県学事課の対応についての照会があり、県学事課は、同月一五日、回答をしたこと、その後、中西弁護士は、同年九月二日、原告らは××幼稚園の対応に不満を持っていること、県学事課としては、××幼稚園に対し、どのような指導、処分を行うのかという内容の照会を行い、県学事課は、同月二九日、遺族に対し誠意が伝わるよう十分な配慮が必要であると考えるので、幼稚園の安全な環境の確保と合わせ、引き続き指導することとしている旨の回答をしたことの各事実が認められる。

右事実によると、被告県は、所管部局である県学事課が、本件事故発生の報告を受けた後、直ちに、××幼稚園に赴いて、事実関係の確認を行うとともに、被告学園に対して、本件事故の報告を求め、また、県内の私立幼稚園に対しても、本件事故が発生したことから、各幼稚園における園児の安全確保及び事故防止の徹底を指導し、被告学園に対しても、遺族に対し誠意ある対応方等を指導していたもので、原告らからの照会についても、県学事課の指導に従った対応がされているかについて調査し、被告学園に対しては、なお、遺族に対し誠意ある対応をするように指導を行ったのであるから、被告県は、本件事故の発生を契機として、被告学園及び埼玉県下の私立幼稚園に対し園児の安全確保及び事故防止に関する指導を行い、それに必要な措置を講じていたというべきであり、被告学園に対しても、原告らに対して誠意のある対応をするように指導し、原告らからの指摘がある都度、被告学園に対する調査及び指導を行っていたのであるから、原告らが主張するように、被告県が、被告学園等が原告らに精神的な損害を与えていることを知りながら、これを放置していたと認めることはできない。

したがって、原告らの被告県に対する右請求は、理由がない。

四  右のとおりであるから、原告らの本訴請求は、主文の限度で理由があるから、これを認容し、原告らの被告学園等に対するその余の請求及び被告県に対する請求は、いずれも理由がないので、棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六一条、六五条、六四条を、仮執行の宣言につき、同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官・星野雅紀)

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